河野重榮 遺稿

父 河野重榮の偲ぶ会を、卒業生の会と共に開催しました。下記原稿は父の最後のまとまったものなので、参加された方に配布しました。図を発表の際に配布するとのことだったので、説明文のみで図が足りませんが、これも父のスタイルだと思いましたので、加筆しませんでした。

 

マネジメント研究の展開と情況的理解
河野 重榮(獨協大学)
報告内容
① マネジメント研究の展開と情況的理解
② The development of management thought and the situational thinking
③ マネジメントケンキュウノテンカイトジョウキョウテキリカイ
④ 河野 重榮
⑤ SHIGEHIDE KOHNO
⑥ コウノ シゲヒデ
⑦ 獨協大学(獨協大学名誉教授)
⑧ Professor emeritus, Dokkyo University
⑨ ドッキョウダイガク(ドッキョウダイガクメイヨキョウジュ)
⑩ マネジメントの展開 情況の法則 マネジメントのフィードバックモデル

本文要約
 マネジメントの科学化・合理化はテイラー(1903)、ファヨール(1916)など、いずれも経営実践の現場から生まれてきた。その後、フォレットによって情況の法則の重要性が説かれ、人間関係論では全体情況の反映である従業員の心情がとりあげられた。今日では情報化とグローバル化による情況の変化が企業経営に重大な局面をもたらしている。この様な状況下でマネジメント学会員の研究方法はいかにあるべきかを考えたい。

1.経営職能構造の形成過程とマネジメント研究
 マネジメントの合理化は工場現場の技術的分業協業からはじまった(図1)。テーラーは伝習より科学(science, not rule of thumb)を主張し、現場作業の唯一最善の方法を見つけ出し、課業管理の成立を主張した。彼の提案した職能別職長制度にplan-do-seeのマネジメント・サイクルを見いだすことができる(図2)。テイラーは管理の時間的局面からplan-do-seeを考え、ファヨールは管理を「予見(予測・計画)―組織―統制」と考えた。なぜ計画―組織―統制となったのか。ファヨールの管理14原則を注目してみよう。



 われわれは、ブラウン(1947)やシュレー(1961)の解釈を取り入れて①②④⑤⑧⑨の原則を分権化と情報集中のサイクル的関連において、要約図示が可能と考える(図3)。
 テイラーは作業現場の技術的分業の科学的研究から科学的管理を提唱した。ファヨールは図3の管理階層の形成において、管理の合理化を考えたのである。
 ファヨールは企業を統一体としての社会的組織として理解することから出発し、③⑥⑩⑭などを管理の原則とする。しかも長の役割の重要性を繰り返し指摘し、特に②において規定上の権限のみでなく、一身上の権限を兼ね備えなければ長の役割は果たせないとの主張など、のちの人間関係管理に引き継がれるものが多い。⑩などを管理の一般原則とするのも、組織と人間の問題を、統一的に考えているからである。
 彼は組織的・人間的原理によって管理の原則を樹立しようとした。⑦で雇用者・被雇用者が同時に満足すべき報酬でなければならない(p.28)。それには専制的監視ではなく、協働への気配りが雇用者によって最も重要であるという(p35)。

2.情況の法則―フォレットの機能的統一体論
 フォレットが、機能的統一体論を主張するに至った契機は、第一次大戦後の労使の対立の解消である。対立が生まれるのは、情況(situation)の把握が対立する双方の立場から、別々に行われるからである。そこで、統合に必要な過程として、情況の協同研究を提唱する。労働者も管理者・経営者も、ともに情況の法則(the law of the situation)に従わざるを得ない。命令は非人格化され、服従は情況に従うことになる。(フォレット論文集,58-64,74-6)。情況の法則に従えば支配的権力(power - over)は全く意味がなくなり、共同的権力(power – with)がきわめて重要になってくる。
 フォレットは、「経営における人間関係の研究と作業の技術の研究(テイラー)とは結びついている。」人間関係の科学的研究を主張するのは、「協働の科学があると信じているからである。」(pp.90,123-4)。フォレットが対立する相違の統合と、発展的情況の非人格的な把握(情況の法則)とを主張する必然的な帰結が、機能的統一体(functional whole)としての経営の理解である。経営においては内外の諸関係は相互依存の関係にある。相互依存性は部分相互の関係だけでなく、部分と全体の関係にもみられる(pp.71-91)。しかも統一化(unifzing)は「過程」と解されなければならない。各部分の相互活動は各部分を変化させると同時に統一性を創りだしている(pp.194-6)。相互作用(interacting)と統一化は同じ一つの社会的過程の2局面であるが、社会的過程には、もう一つの局面、創発(進化の過程で表れた何か新しい前進的特徴)があるといわれてきた。創発をフォレットは統合という。統合は①対立する双方の満足、②情況の改善だけでなく、③やがてもっとより広範な社会的価値を生み出す=発展的情況(the evolving situation)である。
 フォレットが注目されたてきたのは、彼女が科学的管理論者と人間関係論者との橋渡しをしたと考えられてきたからである(図4)。

3.メイヨーの協働の科学―人間関係の情況的理解
 メイヨー(E. Mayo)は、技術的技能(technical skills)だけが高度化した現代社会の危機が、なによりも社会的技能(social skills)の欠如にあると主張した。

(1)ホーソーン調査
 メイヨーによれば、人間関係の分析には、実験的方法(test room)と臨床的方法(面接とobservation room)が必須であるという。実験室調査で、注目されたのは、労働条件(作業時間と休憩)の変化に関係なく、一貫して、職務遂行上の精神的態度も能率も、同時的・継続的に改善されたことである。工場現場の環境よりも、「自由で楽しく愉快な作業環境」で、監督者からの束縛からの解放感が表された。
 そこで、工場現場の監督情況はどのようになっているか、また、労働者の立場からは、通常の職場環境はどのように見られているかの2点について、面接調査が行われることとなった。面接は1928から3年間に述べ21,126人に対して行われた。面接の結果、従業員の苦情には多分に彼らの心情(sentiments)が入り混じっていることが発見された。かれらの心情は、工場外の社会的諸条件の変化、仕事の技術的・社会的変化だけでなく、個々の従業員の生い立ちや前歴など、彼らをとりまく工場内外の全体情況(total situation)の変化に対する彼らの適応/不適応の情況を示していた。全体情況の変化に対して、個人が均衡状態を維持するために、生産制限が行われ、面接によって苦情が表明されると能率の向上がみられたが、特定のグループは面接後も生産性の上昇を示さなかった。そこで、バンク配線作業の観察が行われた。この結果は図5に示されている。
 配線室の従業員は、①あまり働くな、②あまり怠けるな、③仲間の不利になることを監督者にいうな、④えらぶったり、おせっかいをするな(検査工だったら、そのように振る舞うな)という4つの非公式な行動基準によって行動していた。①②の行動基準によって、誰もが同一の生産水準の維持を行い、仲間グループからの疎外は③④に準拠していた。しかも、監督者は彼らの気持ちを汲んだ統制(sympathetic control)を失わないようにするために、彼らの非公式な行動基準に触れないでいた。このような非公式な行動基準を持つ集団の存在は、監督者の指導力の訓練の重要性を痛感させた。

(2)人間関係と職場士気―メイヨー・グループのまとめ



 産業組織は費用・能率および心情の論理(sentiments)によって動かされている。技術的組織は社会的組織よりも、公式組織は非公式組織よりも早く変化しようとする。この変化傾向のアンバランスが、心情の論理に導かれる労働者の抵抗を生み、そこに産業組織における平衡が崩れる。以上が、ホーソーン調査の結果判明した人間関係の諸事実である。
 人間関係論では人間や組織を情況的に把握しようとする。従業員の行為は彼らの全体情況(total situation)の反映である精神的態度(心情)によって決定されると解された。全体情況の理解に立って、産業における不安、つまり現代社会の危機を解決し、自発的な協働の維持、高い職場士気の維持が可能としたのが、メイヨー・グループであった。

4.経営リーダーシップ
 アメリカで経営リーダーシップが問題とされるようになったのは、1920年代の専門経営者の出現以降のことである。1945年半ばに専門経営者の統治能力(corporate governance:利害者集団との関係)が問題とされるようになった。そこで経営教育が、全米の各大学で展開されることになる。ビジネス・スクールの経営教育に対して、ゴードン=ハウエル(1959)は特定の専門職の教育に重点がおかれ、「絶えざる環境変化に対応可能な構想力に富み、柔軟性のある経営者」の教育が用意されていない。プロの実践には何よりもまず「十分に知的な内容のある体系的な知識を特定の事例に適用する技能」を持たなければならない」と主張した。CEOはゼネラル・マネジメントのプロでなければならない。統治能力のある経営者は、価値観が継承され、組織が永続的に成長・発展するとの確信に基づき、CEOの地位を後継者にバトンタッチする。その際に忘れてはならないのは、代々引き継がれてきた経営理念を後継者がしっかりと認識しているかどうかである。経営理念として周知のものはIBMのトマス・ワトソンのTHINKであり、IBMに長く引き継がれてきた。

5.マネジメント学会員の研究課題―ゴードン=ハウエルレポートから
 経営のトップは何らかの経営原理をつかんで、事業の継続に必死の努力をしているに違いない。経営の原理は現場の状況から導きだされる。現場の情況(situation)は常に変化している。激動の時代といわれている今日、情況変化に一時も目を離すことはできない。
 情況の変化の中から導きだされた経営原理を経営実践に生かすには、経験によるknow – howを、技能(skill)にまで高めねばならない。テイラーのplan – do – seeのマネジメント・サイクルをガントはチャートにした(図6)。
 マネジメント学会員が、経営書を読んだり、現場の調査研究を行う場合には、どのような経営原理によって、経営実践がおこなわれているかを把握しなければならない。また、経営実践において、どのような技能(skills)が生み出されているかを把握することが必須である。充分なスキルにまでに達しない場合には、産学協同によって、ノウハウをスキルにまで高める努力を行わなければならない。
 激動の時代、今日の経営を取り巻く情況は、刻々と変化している。この様な状況変化に立ち向かって、経営の方向付けがおこなわなければ、経営は必然的に破滅する。以上次に図示しておこう。なお、企業経営のグローバル化においては、メイヨー・グループの情況の論理の活用が望まれる。





[注]図表と参照文献は、報告会場にて配布します。

本稿は、河野重榮が、2016年3月に日本マネジメント学会での発表用の予稿としてまとめたものです。学会での発表はなされませんでした。図表等、当日配布の予定でした。

2017年10月13日