農村生活研究第60巻第2号に事例報告が掲載されました

2016年10月に第64回日本農村生活研究大会公開シンポジウムでの報告が、学会誌に掲載されました。

内容を下記に転載しました。

一部未掲載の画像を加えてあります。

 

 

[事例報告]


農山漁村の起業活動から、農業の6次産業化へ
―民間と公共の2つの支援の立場を体験して―


河野 律子
有限会社河野経営研究所 中小企業診断士

From Women's Enterprises to Sixth Sector
Industrialization of Agriculture

Ritsuko KOHNO

[キーワード]
6次産業化 Sixth sector industrialization, 農村女性起業women's enterprises ,
事業計画business plan, 普及指導員 extension officers , 埼玉県 Saitama Prefecture


1.はじめに

中小企業診断士の資格で,1998年より経営コンサルタントとして事業に取り組んできたが,2012年8月より職を離れ,3年8か月任期付公務員として埼玉県に勤務した。構造改革特区として「農業の6次産業化普及活動人材活用特区」が認定され,民間の国家資格有資格者を普及指導員として任用するという全国初の取り組みであった。なお,本制度については,2015年12月18日「農業改良助長法施行令」が改正,全国展開となり,特区に拠らずに全国どこでも取り組むことが出来るようになった。


民間の経営コンサルタントとして多様な事業分野に対応してきたが,食品分野の支援については事業開始当初より取り組んできた。農業分野は2003年開催された「女性起業の『みんなおいでフェスタ』inさいたま」の実行委員となったことが本格的に関わるきっかけとなった。

 

農業分野においては,農山漁村の起業活動から農業の6次産業化といった農業の多角化と,企業的・組織的な農業経営を支援するメニューを提供してきた。

 

一方,「女性起業の『みんなおいでフェスタ』inさいたま」の実行委員会を継承した組織として,埼玉・コラボレーション・インスティテュートを設立し,2004~2012年,農業と商工サービス業の女性経営者の交流団体の代表として活動した(表1)。活動を通じて農業女性の前向きな取り組み姿勢と成長する能力の高さを感じ,地域を活かすために後輩を育てる姿を間近で見ることができた。

 

さらに,2009年3月,岡島副知事(当時)の発案により,埼玉県内の女性企業経営者と農業女性との交流を進めるための「埼玉県女性農商工連携推進会議」を開催し,ともに埼玉県が事務局を持つ,さいたま農村女性アドバイザーネットワーク「響」とサイタマ・レディース経営者クラブの交流を図った。

 

また,2009年に農商工連携等人材育成事業「全国商工会連合会」(経済産業省事業)コミュニティビジネス型農商工連携推進のためのプロジェクトマネジメント研修を先述した合同会社埼玉・コラボレーション・インスティテュートで受託し,さいたま農村女性アドバイザーネットワーク「響」1)とサイタマ・レディース経営者クラブ2)の共催で実施し,2010年に農商工連携等人材育成事業「全国商工会連合会」(経済産業省事業)農商工連携プロジェクトマネジメントケーススタディ,2011年に農商工連携人材育成事業「全国中小企業団体中央会」(経済産業省事業)農業分野の生産性向上のためのIT・IEプロジェクトマネジメント研修を(有)河野経営研究所で受託し実施した。

 

■ 参考 農商工連携人材育成事業の募集ちらし(学会誌には未掲載)


このような経験を経て,文頭の,埼玉県での職務に従事したが,経営コンサルタントという民間の支援者としての立場と,農業革新支援担当の普及指導員という公共の支援者としての立場を経験した中で,「女性」が主役であった農山漁村の起業活動が,「農業経営の多角化」を目的とした農業の6次産業化へと変化したとも考えられる状況における課題を考察したい。

 

■ 埼玉・コラボレーション・インスティテュートの活動について

2004年8月 埼玉・コラボレーション・インスティテュートという名称で任意団体として設立
2004年8月~
9月
第1回
事業をする女性と事業をする女性のであい広場
 マッチング・マーケティングセミナー+展示・交流イベント
2004年7月~
2005年2月
女性起業インターンシップモデル事業
(彩の国女性チャレンジ支援事業:埼玉県事業)
2004年10月~
11月
リーダー研修(内部)
 経営戦略と人間関係論に関する研修
2005年3月 第2回
事業をする女性と事業をする女性のであい広場
 税務・会計知識の習得
2005年7月

2006年2月
「まちづくり女性事業者参加プロジェクト」
(With Youさいたま女性チャレンジ支援事業:埼玉県事業)
 目白大学大西研究室との連携
 女性事業者対象に5回のセミナーの実施
2005年7月

2006年2月
「農業女性のためのとっても簡単パソコン講座」
 3回でパソコンの立ち上げ方からの基礎講座の実施
「農村女性起業のIT活用・プレゼン講座」
(With Youさいたま女性チャレンジ支援事業:埼玉県事業)
 6回でダイレクトメールやブログの作り方について学ぶ
「とっても簡単パソコン講座 年賀状作成・エクセル基礎」
 前2回の講座のフォローアップの実施
※ SCIの農村女性を中心とした「農村女性起業のIT活用研究会」主催
2005年7月

2006年2月
「中小企業育児休業取得中女性のための支援プログラム「ずっと働きつづけるために! 仕事も育児もどんとこいサロン」
(With Youさいたま女性チャレンジ支援事業:埼玉県事業)
 育児休業集中の女性を集め4回のセミナーとサロンの実施
2005年11月 東京ファーマーズマーケットに出店
2006年3月 第3回
事業をする女性と事業をする女性のであい広場
 であい広場(展示・交流イベント)
 セミナー 体験(みそづくり,おはぎづくり,フラワーアレンジメントなど)
2006年5月2日 合同会社として法人化
2006年11月~
12月
「効果的なちらしを作ろう」
 自分でちらしを作るときのPC技術を学ぶ
※ SCIと農村女性起業のIT活用研究会共催
2007年2月~
2009年3月
「LLC-SCI ∞ konocon マネジメントセミナー」
「LLC-SCI ∞ konocon マネジメントセミナー08」
「LLC-SCI ∞ konocon マネジメントセミナー09」
2008年3月・
12月
「埼玉発ビジネスフェスタ」1回 2回
埼玉県創業ベンチャー支援センター
埼玉中小企業家同友会女性経営者クラブファム
NPO法人ビブリと共催
2009年9月~
11月
「農商工連携等人材育成事業」 全国商工会連合会(経済産業省事業)
コミュニティビジネス型農商工連携推進のためのプロジェクトマネジメント研修
2010年2月 「ベンチャーフェアJapan2010」出展
2010年3月 「埼玉発ビジネスフェスタ」3回
2012年6月 合同会社解散



2.農業経営の多角化における課題

農業経営の多角化,すなわち,農業の6次産業化は,①農産物加工品の製造,②農産物や加工品の販売,③農作業の体験サービスの提供,④農産物加工の体験サービスの提供,⑤農家レストランでの食事の提供,⑥農家民宿での農業を体感できる宿泊サービスの提供という6つの事業分野を指す。


この6つの事業分野へと進出することは,新たな技術の習得,新たな市場への進出など,多様なノウハウの習得が必要である。例えば,食品加工はHACCPへの取り組みが必須となってきており,Webメディアの活用が不可欠であり,ホスピタリティの最低要件は上がっており,これらの状況にどのように対応するのかが求められている。


また,この取り組みを「だれが」行うのかによって,状況への対応が変わってくる。地域での活動母体がある場合,規模の大きな農業法人が取り組む場合,農業者一戸が取り組む場合など,経営主体の大きさと,取り組みの目的の多様性が「農山漁村の起業活動」が「農業の6次産業化」となることでより広がり,「何に取り組むのか」ということより,「どのように取り組むのか」の重要が高まり,目的を事業化するための経営の視点が不可欠となった。


さらに,激変する経済環境の中で,取り組もうとする経営体の「強み」と「差別化要因」が生かされていないと,利益を上げることのできない事業性の低いものになってしまう可能性がある。

3.目的を事業化するための事業計画

埼玉県在職時に,埼玉県独自の「農業の6次産業化事業計画書(経営ビジョンシート)」を公表し,作成を支援する事業を開始した(表2)。国の農業の6次産業化認定のための「総合化事業計画」の作成についても支援していたが,農業者自らが記入することにより「どのように取り組むのか」を明確にすることを目指した。また,普及指導員との情報の共有化により,継続的かつ効果的な支援を図ることも目的としている。さらにその手順と,フォームをWebページで公開している。


これにより,今後の目標を明確にするだけでなく,自ら考え,無駄のない投資により創業した事業者もあり,農業者自らの経営能力を底上げすることが可能となる仕組みであると考える。

 

 

■ 農業の6次産業化事業計画書(経営ビジョンシート)について


(ステップ1) 「農業の6次産業化事業計画書作成ガイド」に書き込んでみる。
 いきなり計画書に自分の「想い」を書いていくのは、難しいものです。
 そこで、まずはじめに「農業の6次産業化事業計画書作成ガイド」を開いてみましょう。
 それぞれの項目を埋めることで、だんだんとあなたの6次産業化への取組が形になってくるはずです。
  農業の6次産業化事業計画書作成ガイド(PDF:536KB)
(ステップ2) 農業の6次産業化事業計画書に転記する。
 次に、ステップ1で記入した「農業の6次産業化事業計画書作成ガイド」の内容を、「農業の6次産業化事業計画書」に転記します。
 転記するだけで、あなたの6次産業化への取組が形になります。
  (エクセル版)農業の6次産業化事業計画書(エクセル:141KB)
  (PDF版) 農業の6次産業化事業計画書(PDF:171KB)
(ステップ3)普及指導員と共有する。
 埼玉県では、各農林振興センターの普及指導員を中心に、皆さんの6次産業化の取組のお手伝いをしています。
 計画書を作成したら、必ず農林振興センターの職員にも計画を渡して、皆さんの「想い」を共有してください。
(ステップ4)やってみて、書き直す。
 計画は、あくまでも計画です。
 取り組んでみて初めてわかることが、たくさんあるはずです。
 新しい発見があった時には、必ず計画書を見直して、より実践的な計画になるように心がけましょう。
          埼玉県農林部農業ビジネス支援課Webページ
          農業の6次産業化について>農業の6次産業化事業計画書(経営ビジョンシート)
          https://www.pref.saitama.lg.jp/a0902/6jisangyoka/jigyoukeikakusho.html

4.普及指導員の役割

農業の6次産業化は,多くのリスクを伴うものであり,プランナー制度など専門家を活用することがすすめられている。今回特区制度が全国展開されたことも,専門的な支援の必要性が理解されたからということができる。


しかしながら,農業分野における支援の中心は普及指導員である。組織として,個人として長年にわたり課題に向き合っている。「どのように取り組むのか」について,継続した支援が可能である。


商工関係の支援機関の優秀なマネージャーが「実直で知識のある専門家に勉強してもらうのが中小企業にとってよい支援になる」と語った。普及指導員は支援者のみならず支援のコーディネーターとしての機能が求められている。多様な専門家との連携を図り,個別の経営体の実情に合った支援をすることが求められているのではないだろうか。


その際,他の成功事例よりも,その人(組織)に何ができるかということが重要な視点である。「してあげる」のではなく,「自分でできるようにするにはどうすればよいのか」を追求することが必要である。


1) さいたま農村女性アドバイザーとは,女性農業者の社会的役割の向上及び農業・農村における男女共同参画の推進を目的に,農業経営や地域社会に参画している女性農業者を,1993年度から「さいたま農村女性アドバイザー」として知事が認定している。認定要件は農業経営,生活経営に意欲的に携わり,農村生活や農業敬経営に優れた技術があり,地域リーダーとして指導・助言ができること等である。
ネットワーク「響」とは,県内の8農林林振興センター管内の10地区に,さいたま農村女性アドバイザーの会が組織されており,この10団体でネットワークを組織し「響」と称している。会の目的は会員相互の研鑽と親睦さらに,関係団体との連携を図り,女 性農業者の資質向上と社会参画を促進しようとするもの。


2) サイタマ・レディース経営者クラブは女性経営者・幹部を対象に埼玉県が実施した「レディース・トップ・スクール」(1986年~1988年)の修了生が,1987年に自主的に結成した,女性経営者の異業種交流グループ。業種は建設業,製造業,運輸業,卸売・小売業,サービス業等幅広い分野での女性経営者が所属しており,県レベルにおける女性経営者グループとしては,全国初。会の目的は,メンバーの資質向上,経営力の強化を図るとともに,地域産業の振興に貢献すること。


2017年06月04日